自分の行為の作用が及ぶ相手に配慮するのが謙譲表現ならば、行為が直接及ばない相手に配慮する表現も当然あります。
今回扱う「行っておりました」はその典型例とも言え、今回はこのフレーズについて解説いたします。
「行っておりました」とは?
最初に「行っておりました」を文法的に区切って見てみましょう。
いきなりですが、「行って」の部分が最初の重要なポイントとなります。
「行く」の連用形「行き」に、接続助詞「て」が付いた「行きて」が本来の形です。
ただ、動詞の連用形に接続助詞「て」が付くような場合、発音しにくいため「き」が促音、つまり小さい「っ」に変わるという、いわゆる促音便が発生してこの「行って」という形になっています。
次に「おりました」ですが、これは「いる」の謙譲表現「おる」の連用形「おり」に、丁寧表現の助動詞「ます」の連用形「まし」が付き、更にそれに過去や完了表現の助動詞「た」の終止形(文末でない場合は連体形)が付いた形となっています。
ここで重要なことは、「た」が付かない形(つまり現在形)の「おります」という表現です。
これは、いわゆる「丁重表現」と呼ばれるものです。
丁重表現とは、謙譲表現になっている動詞が単に自分にのみ影響する行為でしかないか、あるいはその動詞が作用する相手が話の聞き手とは無関係な場合、謙譲表現と丁寧表現を組み合わせてできる表現は、あくまで話の聞き手に配慮した(話の聞き手を立てる)表現であるということです。
「いる」という動詞は自分にしか関係のない動詞(英語で言えば自動詞)ですので、謙譲表現にしても直接立てるべき相手はいません。
また、この「おります」は通例として、「〜しています」という意味を丁寧に表現した「〜ております」の形で使われ、今回の「行っております(した)」が典型的パターンとなっています。
以上のことから、「行っておりました」とは、「行っていました」ということを、話の聞き手に特に配慮して丁寧に表現したフレーズということになります。
「行っておりました」のビジネスでの使い方や使われ方、使うときの注意点
このフレーズが使われるのは、相手に「説明」する場合か「報告」する場合です。
例えば、配慮すべき相手から、「昨日は連絡が付かなかったけどどこに居たのか」と問われた場合、「昨日はデパートに行っておりました」と答えるケースが「説明」に該当します。
一方、「昨日していたことを教えてくれ」と問われた場合、「昨日はデパートに行っておりました」は「報告」としての回答となります。
いずれも、質問した相手に配慮した丁寧な表現です。
勿論、「報告」は相手に問われない、自発的な形で行われることもあります。
「行っておりました」を使った例文
それでは、上記の他に考えられる例文を挙げてみましょう。
・『昨年は海外留学に行っておりました』
・『その日は出張に行っておりました』
「行っておりました」の類語による言いかえ
「丁重表現」は、基本的に「強め丁寧表現」ですので、概ね通常の丁寧表現で足ります。
「行っておりました」であれば、「行っていました」で通常は問題ありません。
ただ、相手がかなり目上であったり、厳かな式典での挨拶などでは、丁重表現を用いることが望まれます。
まとめ
「行っておりました」とは、聞き手に「行っていました」ということを伝える場合に、特に強く配慮した丁寧表現です。